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 ●「みちと自然」シンポジュウム 
 2003年に施行された「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(以下、種の保存法)対象種であるイヌワシ、クマタカ、オオタカなどに代表される希少猛禽類の保全を図るための基礎資料を蓄積するために、希少猛禽類の生態研究、生息環境解析、架巣環境解析、食性調査、餌現存量調査、行動圏解析、利用環境解析、採餌環境解析などを行っている。

 これまでこれらの猛禽類の行動圏調査は、もっぱら双眼鏡によっていたが、山岳地帯に生息するクマタカなどは稜線を越えると見失うという欠点があった。

 平地に住むオオタカであっても、2-3km先に飛去すると、見えなくなってしまうという不利があった。これを克服するために、ラプタージャパンでは、クマタカやオオタカにソーラーバッテリー式GPS機能付きの小型発信器を装着して人工衛星で追跡している。この結果、これまで認識されていたのとは全く異なる行動圏を持っていたり、全国規模の渡りを行っていることが解明された。これらの資料は道路建設事業やダム建設事業などの各種事業が希少猛禽類に与える影響の予測や評価の際の科学的解析データとして援用が可能である。
 
 註: クマタカやオオタカは、種の保存法対象種であるところから、捕獲に際しては環境大臣の許可が必要である。

*現行希少猛禽類アセスメントの問題点

 これまでの希少猛禽類アセスメントは、環境庁の作成した「猛禽類保護の進め方」に準拠して、事業地周辺において対象猛禽類の飛翔の軌跡図を描き、巣の位置を特定したあと、事業者が招集した専門家で構成する委員会や検討会で事業の影響を予測/評価し、影響があると判断されると、各種の保全策が講じられるのを常とした。

しかし、飛跡図と巣の位置のみで事業の影響を予測し評価することは事実上不可能である。なぜならば、飛跡図や巣の位置には影響を予測したり評価するための「ものさし」が存在しないからである。その結果、招集された専門家の「想像」や「思惑」で影響を判断することになり、同じ事業現場においても意見の分かれるところとなる。

 また、「影響がある」と判断された現場においては、事業の影響を回避したり、軽減するために、保全策が講じられることになるが、その中身を見ると、奥地山岳地帯に生息するイヌワシであっても、クマタカであっても町中に住んでいるオオタカであってもあたかも判で押したように同じ保全策が羅列されている。曰く、非繁殖期の事業、低振動型/低騒音型重機類の使用、巣の直近は迂回するか、トンネルで通過、重機類の塗色変更、作業員の隠蔽、作業員の環境教育などである。この保全策は十年一日のごとく変わったことがない。

 環境庁のマニュアルにしたがって描かれる飛跡図や巣の位置を特定する業務には年間、数千万円から数億円を要している。ところが影響を予測し評価するための委員会に提示された資料と保全策との間には何ら脈絡がないことに気づくはずである。上記の保全策は頭の中で猛禽類にとって「良かれ」と考えた事柄を列記しているに過ぎない。すなわち、現在の事業アセスメントにおいては、猛禽類調査が全く行われなくても、上記の保全策のゴム印を作り押印しても同じことである。

 何よりも問題なのは、対象としている希少猛禽類は、絶滅に瀕しているとして、種の保存法対象種に指定されており、事業の影響軽減のみならず事業完成後も当該地域に生息し続ける環境が保全されていなければならない。しかし、上記の保全策の中にはそれに該当する保全策は全く含まれていない。

*新しい猛禽類アセスメント技術

 生きものは1)食物と2)生息環境によって生存が成り立っている。したがって、希少猛禽類と事業との共存を意図するならば、必然的に食物と生息環境、採餌環境、営巣環境、子育ての場などが評価項目に入ってこなければならない。
 ラプタージャパンでは、事業と希少猛禽類保全との共存を目指して、対象猛禽類の食性解析、餌現存量推定調査、対象猛禽類の行動圏内における餌現存量推定、つがい単位の必要餌量の推定、事業による餌減損量の推定などを行っている。

 一方、生息環境に関しては、広域解析による生息環境解析、営巣木を中心とする架巣環境解析を行い、対象種が必要とする生息環境要因の定性的/定量的把握、架巣環境解析による架巣適地の特定などを行っている。 これまで猛禽類の行動圏を把握する手段はもっぱら双眼鏡に依存していた。ところが最近、クマタカやオオタカにソーラーバッテリー搭載、GPS機能付きの小型発信器を装着し、人工衛星で追跡することによって、これまでに得られていたのとはおよそ異なる行動圏を持っていることが明らかにされた。

 その理由は、当然のことではあるが、山間部に生息しているクマタカが稜線を越えて飛去すると、双眼鏡では追えなくなってしまうという欠点があった。また、平地に生息するオオタカであっても、2kmも3kmも先に飛去すると双眼鏡では到底追えないという事実がある。


 実際にクマタカにGPS機能付きの発信器を装着した結果によると、これまで認識されていた行動圏を遙かに超えて20kmも30kmも先で行動していることが明らかにされた。オオタカに至っては、2年間にわたり青森から鹿児島まで4,000km以上もの渡りをしていることが証明された。言うまでもないことであるが、GPSの位置精度は15mといわれており、双眼鏡が太刀打ちできる相手ではない。

 GPS機能つき発信器を装着するメリットは、人工衛星による追跡であるところから、極端に言うと気象条件、積雪量などに影響されることなく365日、24時間にわたりデータを取り送信してくれることである。取得されたデータは、刻々とパソコンに入ってくるので、一度、発信器を装着すると、ソーラーバッテリーの寿命が尽きるまで発信し続けることである。

 これに引き替え、これまでの双眼鏡による観察では、毎月2-3日間の観察結果でしかない。また、事業地によっては調査を数年間にわたり行うので、長い年月と数億円を要することになるが、その結果、正確な行動圏が把握されていないばかりか、影響の予測や評価に全く使われていないとなると、何をか言わんやである。

日 時  2008年2月6日 15:30-16:45
会 場  都市センターホテル(東京)   
参加費  無料  
共 済 (財)道路環境研究所
主  催  特定非営利活動法人 ラプタージャパン(日本猛禽類研究機構)
内  容

テーマ  :「みちと自然」シンポジウム

演  者 :ラプタージャパン 阿部 學

○講演 :人工衛星を使った猛禽類アセスメント

    阿部 學 (日本、NPO法人ラプタージャパン)

○総合討論


平成17年度